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さらば私の妖精

さらば私の妖精

 本宮尚久妻にして、本宮三兄弟の母、本宮麻須美。死期を悟り別れを告げながら、残りわずかな時間を過ごす。

メモ

響く音
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 昔のことを思い出す。
 瞼を閉じ、記憶の中から響いてくる数々の音。

 安普請のアパートを軋ませて吹きすさぶ風の音。
 びりびりと空気を震わせて走る列車の轟音。
 夕飯時、せわしなくはしゃぐ子供達の歓声と妻の笑い声。

 子供達が寝静まった後のぱたりと静まり返った部屋で、グラスの中で微かに
軋む氷の音。

 かつて幾度となく耳にしていたはずの在りし日の残滓。

オールド
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 仕事帰り、ふと立ち寄ったシガーカフェでもらったオールドのビン。
 ずんぐりとした黒い胴に黄色いラベル、赤い蓋。かつて誰もが憧れて、何度
と仕事で心身共に疲れきったことだろうか。

 目に浮かぶ、すっかり日の落ちた道路を歩くかつての自分。
 線路そばの二階建ての古い木造アパート、雨ざらしで涙のような模様がつい
たコンクリートの塀、所々ぎざぎざした錆の浮き出た鉄製の階段を上り、並ぶ
薄い木製のドア、本宮の表札がついた家へと歩く。窓の向こうはもう明かりも
消えて、薄暗がりの中、しんとした夜の息遣いだけが迎えてくれる。
 極力音を立てないようそっとドアを開ける、かすかに蝶番が軋む音が寝静ま
った部屋に小さく響いた。
 明かりの消えた台所、申し訳程度の狭いダイニングに置かれたテーブルの上
には網の覆いをかぶせた夕飯がおかれ、傍らにはカレンダーの裏に書かれたら
しい『おつかれさま』の文字が並んでいた。

 心身ともに疲れきって帰ってきた日。
 静まり返った部屋、暗いダイニングで一人で食事をしながら、時々、流しの
下にしまってあったオールドのボトルを出してグラスを傾けた。
 静かに寝息を立てる子供達と、傍らで添い寝をしている妻の姿を眺めながら。

話題まとめ

資料リンク

リンク

Last modified:2008/10/19 20:25:26
Keyword(s):
References:[久志] [小池国生]